殺人の門

「ブッ殺す」と心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!

有言実行の更に上ゆく思想の持ち主、みんなが大好きなプロシュート兄貴のこの名言を、田島和幸に諭してやりたい。

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以下、重大なネタバレを含みますのでご注意ください。






次々に不幸を運び込む悪友の倉持修、彼から付きまとわれる田島和幸の波乱に満ちた半生を描いた叙事詩。

歯科医の息子として裕福な家庭で育った田島は、要介護の祖母の晩年の食事に、母が毒物を混ぜて食べさせていたと近所で噂され、祖母亡き後は歯科医の客足も薄れ、学校では虐められ、次第に惨めな生活を強いられる事となる。

そんなある日、ハングリーな日々を送る同級生の倉持修と出会い、田島は今まで知り得なかったアングラな世界に足を踏み入れる。

最初は未知なる経験づくしで、家庭の実状を忘れるにはちょうどいい刺激を与えてくれたが…

少年時代に送られてきた呪いのハガキに始まり、イカサマ囲碁による金銭巻き上げ、初恋の相手は妊娠させられ自殺。
詐欺商法の片棒を担がされるわ、浪費家の悪女と結婚させられるわ…
さらには「別れさせ屋」の偽装不倫にハマり、多大な借金を背負わされ離婚を言い渡される。

その不幸の全てに倉持が関わっていると気付く度に倉持殺害を決意し、あれこれと殺人計画を練るものの、倉持の巧みな言葉で殺意を萎えさせられ、いつもあと一歩の所で殺害には到らない。

最終的に怒りが頂点に達し、ナイフを懐に忍ばせて倉持を待ち伏せをするが、田島が飛びかかる寸前に別の男から刺されてしまう倉持。

これにより倉持は植物状態に陥ってしまい、田島の殺意は行き場を失ってしまう。

ナイフを所持し、倉持襲撃現場に居合わせ田島は、刑事からの問い詰めに対し、殺害計画とそれに到るまでの全てを打ち明ける。

刑事いわく…
「動機も必要ですが、環境、タイミング、その場の気分、それらが複雑に絡み合って人は人を殺すんです」

それがないかぎり殺人の門をくぐるという事はできないと説かれた田島は、自分にはそれらの巡り合わせが無く、幸か不幸か倉持を殺すことができなかったと解釈し、彼に向ける殺意を喪失させた。

…かに思えたが!





単純な詐欺にあった愚痴なんかを聞いてもらった時に
「そりゃ騙される方が悪い!」
なんて言われる場合がありますよね。

この物語は主人公の田島和幸を通し、様々なケースの「そりゃ」を見せてくれます。

時に学習能力の無さであり、時に危機管理の薄さであり、時に世間知らずであり…

そもそも葛藤にかける時間が短すぎるんですよね。

これで彼がとんでもない能天気なお人好しで、小さな事は気にしない愛すべきバカなら好感も持てましょうよ!

ですがこの田島、物事を理路整然と考え、過去の経験を思い起こし、自分に沸き起こる殺意でさえ冷静に認める男。

時には人を見下した態度をとったり、落ちぶれた父親を見限ったりと、冷酷な一面も見せる男。

それなのに簡単に騙され続けるキャラに苛立ちを覚えますが、それこそ東野圭吾の思うツボかと。

倉持を最低最悪の極悪人として描きつつも、それを凌駕する嫌悪感を被害者側の田島から発信するというトリックアートの様な作品。

で、そんな田島和幸の愚かしさで締めくくる驚愕のラスト。






裕福な幼少期に家政婦をしていた女性と出会い、当時の思い出話の一端で不幸の始まりの事実を知る。

母が祖母の食事に毒を混入させていた噂を流したのは倉持だった!

それを聞いた田島は、倉持が収容されている病院へ駆けつけ植物状態の首を絞めてしまう。

後味の悪さこの上ないラストですが、田島和幸はやっとの事で殺人の門をくぐれましたとさ。


















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